ひのきみ通信 第32号

1999年6月4日


目次

新ガイドライン関連法抗議!「日の丸・君が代」法制化阻止
 5・27緊急県民集会に参加して
前田伸治・柏市小学校教員
八王子・石川中の卒業式…子どもたちはがんばった 根津公子・八王子市立石川中学校教員
〈シンボル〉の軽重を問う
 4・30「日の丸・君が代」反対県民集会に参加して
川鍋光弘・元高校教員
新聞の投書欄にみる「日の丸・君が代」論争 鳥塚義和(小金高校分会)
この夏のお勉強、スタディツアーのご案内
お知らせ
編集後記 素直な天の邪鬼

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新ガイドライン関連法抗議!
「日の丸・君が代」法制化阻止
5・27緊急県民集会に参加して

(前田伸治・柏市小学校教員)

 この日は、幸いにも鎌ヶ谷市に出張で、その足で6時ちょい過ぎに県教育会館についた。
 事務局(高教組の渡部氏)からの経過報告が始まっていた。「高教組は各支部で宣伝してきた。中央集会にも積極的に参加した。今後も、新ガイドライン体制阻止に向けて、県内で運動を広げていくこと、具体的には千葉県内にネットワークをつくっていきたい。そして、戦争へ導くものを孤立させ包囲し、粉砕する。」
 次に、政党(日本共産党)からの挨拶があった。「千葉県内で新ガイドライン反対の決議が上がっている。栄町、下総町。流山市、船橋市である。教え子を戦場に送らない闘いをしている先生方や参加者の皆さんと連帯していきたい。」
 続いて、各方面からの決意表明があった。

●「マブイ」の上映上映運動
 「人々に法案のないようをきちんと伝えたら、ほとんどの人は反対するだろうし、これからの運動の展望は十分開けるだろう。そのためには、『普通』の人達が参加できる多面的な運動が必要だ。私は、二児の父親だが、父母といっしょになって『君が代・日の丸』反対の運動を起こしていきたい。
●百万人署名運動
 「24日早朝から7万枚のビラを東京23区の区役所、駅頭でビラまきした。そして、国会前に座りこみに入った。残念ながら、法案は強行採決された。もはや国会は『話し合い』の場ではない、あらゆる職場で反戦のたたかいをおこす必要がある。民間の職場は、法案では兵站部を担わされる。したがわなければ業務命令。業務命令に反対すれば、解雇される。この法案を『張り子の虎』にしていく。百万人署名はこれまでに73万集まった。6月中に百万を達成したい。日本は独自にアジアに侵略しようとしている。臨検法案がそうであるし、今、国会を通そうとしている『組織犯罪対策法』(『盗聴法』など)、『日の丸・君が代』の法案も出そうとしている。」
●全教千葉
 「宣伝していく中で、反応が良かったのは、年輩の方と高校生だった。高校生が署名したことに展望がある。学校の現場は忙しいが、ピースメッセージを募ったら多くの人が思いをいろいろに書いてくれた。その中で、例えば『これまで平和憲法に守られてきた。法案には人間として絶対反対。教え子を再び戦場に送らない。法案は廃止するしかない。』」

デモ風景

●千教組千葉支部
 「千教組の定期大会に向けて職場会で、『新ガイドライン反対、君が代・日の丸の強制・法制化反対』について話し合い、定期大会で発言したが、方針に入れられず悔しい思いをした。『君が代・日の丸』については、学校長は自分の考えは一切いわず『学習指導要領に則っていく』と繰り返すだけ。『君が代・日の丸』は私たちにかけられた最大の攻撃である。千教組千葉支部4300人の力を教え子を戦場に送らない闘いに向けていきたい。『君が代・日の丸』の攻撃は一層強まっている。現場で闘うのが一番である。国民的な話し合いは、自民党の方向にくみすることになる。広島高教組の闘いのように現場で闘うことが大事である。現場で闘うことが教え子を戦場に送らないことにつながっていくと思います。」

 最後に「決議文」を採択してデモに移った。デモの途中、高校生から「うちの学校では先生がガイドラインについて話し、授業をやった」、女子高校生は「千葉市のここだけで反対してどうなるの」、民間会社の青年は「この法案に反対していくにはどうすればいいのか」などと話しかけてくれた。JR千葉駅西口まで約40分、市民に向けて参加者のシュプレヒコールを届けた。参加者約70名、まだまだ反対する運動は小さい。本番はこれからだという気持ちを持って帰りの電車に乗った。

集会決議

 戦争法と呼ぶべき「周辺事態措置法」等の日米新ガイドライン関連法案が5月24日参議院にて、自自公の賛成により可決・成立させたことに対して断固糾弾をする。
 日米新ガイドライン関連法は「自衛」の名の下に日本が交戦権を発動し、朝鮮半島をはじめとするアジア、さらには世界的規模で「地域紛争」への直接介入を可能とするものである。政府原案になかった後方地域支援での組織的武器使用も新たに加えたこと含め、日米新ガイドライン関連法は自衛隊があらゆる場面での武力行使を可能にする法律となっている。さらに、自治体、民間を問わず戦争に動員する事は、全国民的な総動員法とも呼ぶべき内容を持ち合わせている。憲法九条に於いて国際紛争を解決する手段として軍事的威嚇すら禁止している事からしても、武力が国際紛争の解決には全く役に立たないとの見地からしても、今回の日米新ガイドライン関連法案が国会で成立しようとも私たちは絶対に認める事はできない。
 さらに有事体制づくりが、国民の支配管理を進める組織犯罪対策三法や全ての国民の土地を軍事利用する事を容易にする米軍用地特別措置法の再改悪、「日の丸・君が代」法制化などにより押し進められていることに対して、私たちははっきりと反対の意思を表明する。自由で民主的な感性を育て合う教育の場に、侵略戦争のシンボルである日の丸・君が代を持ち込むことは絶対に反対である。
 私たちはあらゆる国家間の課題、国際的な課題が武力では解決しないばかりか、武力を行使したことにより新たな消しがたい課題を作り出すことを知っている。その意味に於いて、現在拡大しているNATO軍によるユーゴ空爆に対しても即時停止を求めると共に、全ての国際紛争の解決には多くの時間と労力がかかろうとも話し合いによる解決を求る。
 一方、今回の日米ガイドライン関連法案が成立したとは言え、戦前と全く同じ状態になった訳ではない。私たちは、まだ戦争そのものを押し止める闘いができることを確認し合いたい。
 地域・職場の中に於いて一人一人が、「絶対に戦争に協力しない」「絶対に戦争に参加しない」事を確認し合いながら、職場段階での戦争協力拒否の協定化を実現したり、不戦を誓い合う地域の平和ネットワークを作ることが可能である。
 さらには日本政府の好戦性に対置して、私たちは民衆レベルでアジアの人々と友好関係を作ることが、戦争を押し止める力になるとも考る。戦後補償の実現をはじめとして共同の闘いを作り上げることの中で、アジアの人々と共に戦争を阻止していく。
 私たちは、今こそ日本の多くの人々と団結し、さらにアジアの人々とも連帯をしながら日米ガイドライン関連法の発動を阻止し、軍事同盟と変質した日米安保条約を破棄するために闘いの輪を力強く広げていく。
 以上決議する。
1999年5月27日
新ガイドライン関連法成立抗議・「日の丸・君が代」法制化阻止
5・27緊急県民集会参加者一同

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八王子・石川中の卒業式…
子どもたちはがんばった

(根津公子・八王子市立石川中学校教員)

 「日の丸だけでも揚げさせてほしい」と発言してきた昨年までとは違って、今回は「日の丸を壇上に、君が代を奏楽で行う、管理規則もあることだし」と言う校長。最後の1校である石川中学の校長への市教委の「指導」の凄まじさは誰の目にも明らかだったが、その点を質すと校長は否定までした。今までになかったことだった。
 職員会議は「日の丸・君が代はいかなる時間にも石川中のいかなる場所にも実施しない」原案を可決していた。一方、子どもたちは入試が終わると発表を待つ間もなく卒業式実行原案可決していた。一つひとつ討議に付し、「私たちの卒業式」をつくっていった。

 さて、卒業式前日。「せめて子どもたちに実施する理由を説明してほしい」という3年職員の要求を受け、校長が子どもたちに話をしたのだが納得しなかった子どもたちは、放課後校長室を訪れた、はじめは7〜8人で行ったらしいがうまく思いが伝えられず、明日の準備で残っている人たちに呼び掛け、準備がすべて終わった18時、20〜30人で校長室を訪れている。「私たちの卒業式です、私たちがつくってきた卒業式です。壊さないでください」「3年生の多くは日の丸・君が代を強行実施することに反対しています」口々に思いを訴えたそうだ。。「一晩考えさせてほしい」との校長の言に退席したのは20時に近かった。
 一方、3年職員も式1週間前から毎日、時には全員で、時には2人づつで校長に職員会議の決定を守るよう要請を続けた。式の主人公は子どもたちであり、子どもたちの活動を保障するのは3年職員の責務である。こう確認しあっての行動であった。しかし、校長は「子どもが混乱を起こしても仕方ない」とまで言って耳を貸そうとはしなかった。
 当日、校長は子どもたちの行動に「譲歩」したつもりか、「日の丸」をポールに、「君が代」は式の始まる前にボリュームを小さく絞ってテープで、しかし、強行した。3年生は「君が代」を流したことは式が終了するまで知らなかったが、ポールに揚がった「日の丸」に怒りをあらわにして入場する子どももかなりいた。卒業証書をもらうとき、校長からもらうのはいやだ、明らかにそういう表情をしていた子どもが何人もいた。
 式が終わり、「見送り」となり校庭に出ると大勢の子どもたちが、「校長先生はひどい、自分のために生徒を犠牲にした」と言っていた。「昨日、校長先生に話しに行ったこと、今朝聞いたけど、私も参加したかった」と言う子どももまたかなりいた。あるいは、「校長の行為を決して許さない」と校長に通告しに戻った生徒もいた。子どもたちだけでなく、保護者の中にも怒りの声があったようだ。保護者が何組か、わざわざ私をみつけて挨拶にこられたので、私が「本当なら、おめでとうございます、と言いたいのですが今日はそういうと嘘になるから言えません、ごめんなさいね」と言うと「わかります、その気持ち、私たちも同じです」とどの保護者も言っていた。まあ、私のことを快く思わない人はわざわざ来られないだろうから、どのくらいの保護者がそう感じられたかはつかめないが、「極少数」でないことだけは確かなことだ。
 権力を濫用した校長によって卒業式は壊された。(これこそ異様な光景であった)新任の98年度入学式では、私たちが論理的に話を整理していき「辻褄の合わないことは止めましょうよ」と促すと、「では止めます」と校長判断をした人。その人が1年後には「日の丸・君が代に歴史的問題があっても、学習指導要領に沿って私は実施します」「反対するなら私に言うのではなく、選挙によって政府を変えたらいいのです」と言ってはばからない。まさに、地下鉄サリン事件犯の豊田被告(問題にされている根津先生の教材プリント)(通信31号参照・編集部注)の心理と同じだと私は思う。1年で校長はそこまで行った。
 校長は(分身のように振る舞う教頭も)、私たち職員には権力を濫用しても心が痛まないのだろうが、子どもたちを前にしても同じように心が痛むことはないのだろうか?何度そう思って校長の顔を覗き込んだことか。
 子どもたちはよく考えて行動した。立派、と思う。最初に声を上げる人がいなければ始まりはないということは、子ども集団でも同じだった。「式場内の三脚」が「外のポール」に、「入場後の君が代奏楽」が「入場前の君が代奏楽」にさせただけで、子どもたちの校長の権力に勝てはしなかったが、中身では子どもたちの団結による勝利であった。服従を強いられたのに、子どもたちはそれに抗して闘い、どう行動していくのかを学習する機会に変えてしまった。
 子どもたちは、3年間の平和学習で歴史の事実を、また、ことあるごとに学校生活は自らの手でつくっていいのだと、当たり前のことを知らされていた。私たち教員がしてきたことと言えばそれだけであった。

(根津先生には大変忙しい中、原稿をお願いしました。編集担当の間違いで前31号と今32号の2回に別けて掲載することになってしまいました。申し訳ありませんでした。編集部)

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〈シンボル〉の軽重を問う
4・30「日の丸・君が代」反対県民集会に参加して

(川鍋光弘・元高校教員)

 かつて、のちにワイマール共和国とよばれることになる国家が存在した。この国は、第一次大戦直後、レーテ(ソビエト)共和国を主張するスパルタクス団(ドイツ共産党)の活動を、軍隊と社会民主党とが圧殺して成立した国家ではあったが、その国が制定した憲法は、日本国憲法にまさる民主的な憲法であった。完全比例代表制の選挙、法律案についての人民決定投票など。
 その憲法は、19世紀初頭以来のウィーン反動体制に対する抵抗のシンボル、「黒・赤・金」の三色旗を国旗に制定した。但し、通商旗としては、帝政時代の国旗「黒・白・赤」の上部の隅に「黒・赤・金」の新国旗を加えるとした。翌1920年、軍隊の一部が反乱を起こし、数日間ベルリンを占拠、「ドイツ共和国の国旗は『黒・白・赤』であると宣言したが、国民的ゼネストによってクーデターは失敗した(カップ一揆)。敗戦後の破局的な経済危機からようやく脱出した1925年、ドイツ国民は第一次世界大戦の英雄といわれたヒンデンブルグ将軍を大統領に選出してしまった。彼は「ドイツの公館・領事館は『黒・赤・金』と『黒・白・赤』の両方の国旗を掲げる」よう大統領令を出した。そのため、ルター円卓議会の信任を失って、僅か4ヵ月で倒壊してしまった。そのころ、ナチスはまだ僅か10数名の議席しかもたない群小政党であった。世界恐慌はナチスを第一党に押し上げ、ヒンデンブルグはヒトラーを首相に任命した。ナチスは合法的に政権を掌握した。ヒトラーは共産党議員81名の出席を禁止し、社会民主党94票の反対、 441票の圧倒的多数の賛成で「政府で制定する法律は憲法に違反しうる」という、悪名高い全権委任法を可決させ、独裁を始めた。
 しかしまだ、国旗は「黒・白・赤」と「ハーケンクロイツ」の両用であった。
 ヒンデンブルグの死後、1935年9月15日、帝国国旗法によって、「ハーケンクロイツ」がドイツ唯一の国旗となった。ワイマール憲法は廃止されたわけではなかった。 校内で銃を乱射し、多数の生徒・教職員を殺害して、自らも自殺したアメリカの二人の高校生は、ヒトラーに心酔していたという。ハーケンクロイツをバックにコートを着込んだグループの写真がテレビで放映された。一方、日本ではあらゆる予想に反して、圧倒的多数で石原慎太郎が都知事に当選した。彼は意気揚々と、日の丸の小旗を打ち振る支持者の群れに迎えられて初登庁した。記者の質問を「あれは法制化することになったでしょ」と一蹴してしまった。
ハーケンクロイツ  ドイツ・デモクラシーの悲劇が再現するとは思わない。しかし、近現代の世界において国旗・国歌は、他国を侵略する場合にも、反対に他国の支配から独立する場合にも、人々を一つの目的にまとめるためのシンボルとして効果的に利用されてきた。我我のデモや集会でも、最近は下手すると、参加者の数より、ハタ・サシモノのほうが多いくらいかも知れぬ。君が代は歌詞が主権在民にふさわしくないとか、日の丸は明治初期に商船旗として法制化されているから云々という表象的な問題だけではないだろう。「日の丸・君が代」が侵略戦争に国民を動員するシンボルとしてのみ利用されたことを明らかにし、法制化と強制に反対する闘いの方法を国民的に討論すべきであろう。シンボルをめぐる闘いには、心性的な働きも大きく作用するから、あるいはたった一人で日の丸を破棄したり、無関係を装ったりする場合もある。だからこそ、教育文化の闘争として、国民的に討論する必要があるのだ。日の丸にかえて櫻の花にしましょうとか、富士山印にしようとかという討論ではないだろう。櫻の花だって、帝国海軍のシンボルであって「七ッ釦は櫻に錨」と歌って多くの青年を戦場に送ってしまったことを 忘れてはなるまい。そういうことならば、むしろ青白赤の三色旗の真中に「日の丸」をつけた日産ルノー旗とか、星条旗51番目に白丸を加えた「空条旗」なども、話としては面白いかも知れぬ。シンボルだからそれ程重く考える必要はないのかもしれないのかも。
 これからの時代は、恐らく、近代国民国家の対立相剋といった時代ではなく、地方の住民の生活の保証向上と世界的な人権の擁護を要求して闘う時代であろう。その意味では、支配階級は「日の丸・君が代」の法制化と強制が世論を分裂させ、政情を不安定にするようならばあえて強引に法制化にもちこまないかも知れぬ(楽観的すぎるか?)。
 「やたら敵対視しないで、アカハタもサンケイも読んで、どうですか」という、女子高校生の爽やかな一言が、なぜか心に残った集会であった。

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新聞の投書欄にみる「日の丸・君が代」論争

鳥塚義和(小金高校分会)

1.論点を整理すると

 広島で高校校長が自殺したことをきっかけに、政府が「日の丸・君が代」法制化の検討を始めたことから、新聞や雑誌で「日の丸・君が代」をめぐる議論が活発になってきました。
 1999年2月から4月までの3ケ月間に、「日の丸・君が代」に関する投書が、朝日新聞「声」に28通、毎日新聞「みんなの広場」に29通、読売新聞「気流」に5通掲載されました(いずれも東京版で数えています)。
 それらの意見を読むときや「日の丸・君が代」に関して議論する時に、論点を整理しておく必要があります。私は、次のような5つのレベルの設問に分けて考えると、個々の意見の位置づけが明確になると思います(細谷実「『日の丸・君が代』の論点整理」『世界』1999年5月号を参考にしました)。

  1. 国旗・国歌は必要か。(国旗・国歌の要不要)
  2. 国旗・国歌には日の丸・君が代がふさわしいか。(日の丸・君が代の適否)
  3. 日の丸・君が代を国旗・国歌として法制化すぺきであるか。(法制化の是非)
  4. 日の丸・君が代を学校の儀式で実施することは教育的に意義があるか。(教育的意義の有無)
  5. 掲揚・斉唱は一律に教員や生徒に義務や強制をともなう形で行うべきであるか。(強制力の是非)

 読者のあなた自身も、これらの設問に「はい・いいえ」で答えてみてください。自分自身の意見、立場を確認することができます。
 これらの設問に賛成する数が多いほど、また下位の設問に賛成するほど、より強く「日の丸・君が代」を推進する立場であり、思想的には保守、ナショナリズム(国家主義)の立場であると判断することができます。特にEを肯定するか否定するかという点が、リベラリズム(自由主義)と全体主義(右翼)との分かれ目になると言えるでしよう。


2.朝日・毎日・読売の社説

 では、まず全国紙の社説について具体的に検討してみましよう。朝日は、[強制は流れに反する」「なぜ、いま法制化か」と題し、次のように主張しました。

日の丸・君が代問題は、戦争や歴史への見方とも絡んで、大人の世界でも意見がわかれる。それを一律に学校に持ち込み、子どもたちへの指導を強制することには反対だ、と私たちは主張してきた。(中略)学校や生徒の自主性を大事にする、というのは教育行政の大きな流れといえる。それなのに、日の丸掲揚と君が代斉唱だけは、上から形式的に強制する。そこだけ逆流しているような違和感がある。(中略)「強制」と「自ら学び自ら考える」ことは、どうみても矛盾するのではないか。卒業式や入学式をどういう形で持つかは、各学校で話し合い、それそれの形をつくればよいことだと思う。
(3.2)
法制化によって学校での日の丸掲揚と君が代斉唱を徹底させようというのは本末転倒というほかない。国旗、国歌をめぐる多様な論議を封じ、日の丸、君が代の強制につながりかねないからだ。(中略)国旗、国歌の法制化を議諭するのなら、教育現場を狙い撃ちにするような性急なやり方ではなく、国民全体の合意を徐々に広げていく方法をとるべきだ。(中略)先に法制化ありき、はよくない。
(3.3)

 これは、上のEのレベルで明確に反対することを中心に置き、Cについても性急なやり方に反対するという主張です。
 朝日と対照的なのが、読売です。「『国旗・国歌』問題にけじめを」と題し、次のように主張しました。

わたしたちは、成文法に書かれていようがいまいが、「日の丸」「君が代」は、伝統と慣習により、国旗であり国歌であると認識している。(中略)「日の丸」「君が代」とも、国民大多数の間に、国旗、国歌として定着しているのである。国際的には、もっとはっきり、日本の国旗、国歌として定着している。オリンピックをはじめとする国際スポーツ大会でのことは、いうまでもない。(中略)こうした現実からすれば、これまで「日の丸」「君が代」をわざわざ法律で国旗、国歌と指定するまでもなかった。しかし、慣習法にゆだねてある結果として、教育現場で混乱が続いているのだとするなら、法制化も考えてよいだろう。掲揚・斉唱反対派が、国旗、国歌だという成文法上の根拠がないことを理由のーつにしていることを見れば、なおさらだ。
(3.4)

 この意見は、Bの設問に賛成することを基本にし、同時にC,D,Eについても肯定する見解だとみなすことができます。
 毎日新聞は、「広く、深く、議論する場を」と題し、「国民の間に国旗・国歌として定着している」ことを認めた上で、学校現場に強制することには反対である、という見解です。Bレべルで肯定し、Eレべルで反対、Cレべルでは国民の議論を求めるというスタンスとみなすことができます。


 3.投書欄の意見を分類すると

 次に投書欄に載った意見を分析してみます。個々の意見が主にA−Eのどのレべルに力点を置いて論じているか、そして賛成か反対か、を判定します。新聞ごとに分類し集計した結果が次の表です。

  朝日 毎日 読売
  賛成 反対 賛成 反対 賛成 反対
A            
B 4 9 10 11 1  
C   1 2 1 3  
D   5   2 1  
E   4        

 朝日は全般的に「日の丸・君が代」に批判的な意見が多く掲載され、毎日は賛否半ばし、読売は議論そのものに消極的で、掲載された意見は賛成意見のみでした。


4.「日の丸・君が代」は国旗・国歌にふさわしいか(Bレべルの議論)

  Bのレべルで、「日の丸・君が代」に賛成する意見には、国際的にも認められ、国民の間に定着しているというもののほか、次のようなものがあります。

 「旗や歌には罪がない」という意見は、他にも出されています。(朝日3.13、毎日4.7)
 これに対し、次のような反対意見があります。

 そこで、「日の丸・君が代」の弱点である過去の侵略戦争との関わりについて、その悪いイメージを克服する努力をして、「反省の旗・歌」として残そうという意見が高校生など若い世代から出されました。(朝日3.6、毎日3.18、毎日4.20)
 「日の丸・君が代不戦の象徴に」と題する次のような高校生の意見もそのーつ。

 「君が代」が国歌としてふさわしいという賛成意見は次のようなものです。

 「君」の解釈を変えればいいという意見もあります。

 これに対し、反対の理由として、軍国主義で果たした役割を問題とするもののほか、歌詞の内容が君主をほめたたえるものである、曲調が暗く元気が出ない、ということがあげられています。

 最後の意見は自衛官の方のものです。
 こうした点を踏まえて、新国歌をつくることを提案する意見も出されました。

 他に「故郷」を推薦する声もあります。(朝日3.10)
 また、在日韓国人の高校生は、「在日の私にも歌える国歌を」と呼びかけています。



5.学校の儀式に「日の丸・君が代」をもちこむべきか(D,Eレべルの議論)

 学校の儀式に日の丸・君が代を持ち込むかべきかどうか、さらに強制すべきかどうかというのが、D,Eレべルの議論です。
 まず、Dのレべル。儀式で「日の丸・君が代」を実施することに教育的意義があるとする賛成意見は次のように、愛国心の必要性を説くものです。

 これに対し、反対意見は教育的な効果がないと主張しています。

 実施した側の元校長の証言があります。

 つぎに、教員の証言。Eレべルの議論で、日の丸・君が代の強制が職場にもたらした影響について述べています。

 指導される側の高校生も投稿しています。まず、説明もされずに、「君が代」を歌わされた経験を持つ高校1年生。

 次に、「若者には君が代など必要ない」という意見。

 同じく「君が代」のない卒業式を体験した高校生は「アンケートで手作り卒業式」について述べています。

国民学校教科書
国民学校教科書 三年生 (1941)

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この夏のお勉強、スタディツアーのご案内

7月20日(火)〜7月23日(金) ピースフルツアー・エコネット美

体験ツアー&寿コンサート in ヌーファの浜
問合・申込:深沢一夫FAX.045-434-3896 参加費56000円

7月23日(金)〜7月25日(日) 第41回自治体学校 in 岐阜

記念講演「地方自治がひらく21世紀の日本と世界」
実践報告「藤前干潟を守り抜いた市民の知恵」
分科会・講座・現地見学会・中規模教室
問合・申込:自治体学校事務局 ■03-3235-5941 FAX.03-3235-5933

7月28日(水)〜8月1日(日) 夏のごんずいのがっこう・水俣環境ツアー

問合:水俣病センター相思社■0966-63-5800 参加費29400円

7月30日(金)〜8月1日(日) 第16回教育労働者全国交流会

テーマ:戦争国家と「日の丸・君が代」
会場・宿舎:国民宿舎「音戸ロッジ」(呉市)
問合・申込:吉田晃FAX.0471-64-2246

8月6日(木)〜8月17日(火) マレー半島南部戦争追体験の旅(案内・高嶋伸欣)

問合・近畿日本ツーリスト東京千代田支店 ■03-3263-5522 参加費285000円

8月19日(金)〜8月22日(日) 伊江島「やすらぎの家」合宿学習会

問合・映像文化協会■045-981-0834 参加費80、000円ぐらい

8月20日(金)〜8月22日(日) 夏のごんずいのがっこう・初めての水俣

問合:水俣病センター相思社■0966-63-5800 参加費18900円

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お知らせ

6月4日(金) 7:45
〜9:00
現業職員削減撤回行動 JR千葉駅&本千葉駅前
6月4日(金) 18:00〜 第45回命どぅ宝ネットワーク署名提出行動 衆議院議員面会所集合
6月4日(金) 16:20〜 松本教育裁判第20回公判・原告本人尋問 千葉地裁松戸支部
6月4日(金) 17:30〜 我們不會忘却!「89.6.4天安門事件紀念集会」 豊島区民センター6階文化ホール
6月5日(土) 14:30〜 「MABUI」上映会 江戸川区総合区民センター
6月5日(土) 16:00〜 天安門事件10周年公開学習会
 「中国における民主活動家投獄の法的側面」
アムネスティ日本支部東京事務所
 (高田馬場駅歩8分)
6月8日(火) 15:00〜
16:40〜
中国人元「慰安婦」第一次訴訟
報告集会「オーストラリアから見た日本の戦後補償」
東京地裁712号
 
6月8日(火) 15:30〜 北九州「君が代」訴訟第10回口答弁論 福岡地裁301号
6月9日(水) 10:00〜 安田弁護士裁判(9:20頃整理券交付締切) 東京地裁
6月10日(木) 13:10〜 中村さん分限免職裁判 千葉地裁501号
6月12日(土) 13:00〜 「人権教育のための国連10年」を推進する千葉県連絡会 千葉県教育会館501号室
6月12日(土) 13:00〜 子どもと教科書全国ネット21第2回総会 日本教育会館(地下鉄神保町駅歩5分)
6月12日(土) 17:00〜 「空蝉の世の微風に吹かれて」
 佐渡山豊1999TOKYO ライブ
新大久保R'sアートコート
6月19日(土) 18:00〜 高嶋教科書裁判を支援する会6周年記念シンポジウム
 「生徒がつくる新たな学校像」
 所沢高校の生徒・保護者・教員から
かながわ県民センター(横浜駅歩5分)
6月20日(日) 13:30〜 「日の丸」「君が代」法制化に反対する集会 文教区民センター
 (都営地下鉄三田線春日駅)
6月23日(水) 18:30〜 水俣セミナー
 「私の水俣民衆史−いま水俣を見て」色川大吉
環境パートナーシップオフィス
 (コスモス青山B2・地下鉄表参道駅10分)
6月24日(木)
 〜25日(金)
  千葉高教組定期大会  
6月25日(金) 18:00〜 劇団はぐるま座「南の島から」 成田国際文化会館ホール
6月26日(土) 18:30〜 「もう一つの歴史」入門編 「慰安婦」問題とは? 東京ウィメンズプラザ会議室
6月28日(月) 13:15〜 福岡高校「日の丸」処分損害賠償訴訟判決 浦和地裁
6月28日(月) 13:30〜 町田市立つくしの中・いじめ自殺・情報隠蔽事件
 「調査報告義務訴訟」
 大河内さん(清輝くんの親)証言
東京地裁721号
6月30日(水) 18:00〜 劇団はぐるま座「南の島から」 千葉県教育会館大ホール
7月1日(水) 10:00〜 安田弁護士裁判(9:20頃整理券交付締切) 東京地裁
7月3日(土) 14:00〜 「中高生の実像に迫る」講師・藤井誠二
 問合・043-274-8128
 (留守電に自分の名前と電話番号を入れてください)
市民スクール
 (JR新検見川駅バス15分「5丁目19街区」
 歩1分・生活クラブ生協4階)
7月8日(木) 11:30〜 東京都「皇太子結婚祝賀事業」住民訴訟
 第13回口答弁論
東京地裁611号
7月9日(金) 13:30〜 中国人「従軍慰安婦」第二次訴訟 東京地裁709号法廷
7月19日(月) 15:30〜
16:00〜
高嶋教科書裁判
報告集会
東京地裁101号法廷
弁護士会館17階
7月21日(水) 18:30〜 水俣セミナー「水俣一揆」を見る
 患者・川本輝夫さんを偲んで
環境パートナーシップオフィス
 (コスモス青山B2・地下鉄表参道駅10分)
8月1日(日) 14:00〜
17:15〜
「川本輝夫さんを偲ぶ集い」土本典昭、原田正純、ご遺族
献花・懇親会
主婦会館プラザエフ(四ッ谷駅麹町口)
8月3日(火)
 〜7日(土)
  「原爆の絵と対人地雷」展 志津ふれあいセンター
8月8日(日)   「三たびの海峡」上映会 佐倉市民音楽ホール(京成臼井歩6分)

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編集後記

 世の中の動き慌ただしく、「戦争協力法」「盗聴法」「国民総背番号法」やらと物騒な法律が次から次へと繰り出され、ロクな議論もないままに国会を通過していく。これが、例の「小渕力」というヤツか。それにしても、この国民だいぶ呑気とは聞いていたが、自分たちの頭の上に火の粉が落ちても気がつかぬとは、と心配するほうが頓間のようでバカバカしい。世はすでに、気分は「戦前」ムードにのってホントの戦争?世の中に流されぬように棹さす毎日。
素直な天の邪鬼

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